窪田空穂の『去年の雪』『清明の節』を終わった。
古典の書写、その後に全歌集を少しずつ読むことを早朝の作業にしてきた。初期から晩年までの歌業をかたわらに、時間をかけて対話するというわけ。
空穂を開きはじめたのは去年の1月1日、以来1年7カ月かかったことになる。
『去年の雪』は88歳から90歳にかけての作品。老いや病苦の歌は当然出てくるが、周辺への関心の瑞々しさには感嘆させられる。息子の戦死への悲しみはいつになっても消えない。
しかしそこから軍国主義批判へ向かうかといえばそうでもない。天皇制、靖国への敬愛は一貫して変わることがない。その精神構造に私などは不可解な思いがする。
だからといって空穂の世界が帳消しになるわけではない。
この夏はロンドンオリンピック。空穂の東京オリンピック詠がちょうど同じ時期に重なってあらわれる。空穂88歳、好奇心は少しも衰えない。
(2012年8月20日)