【往還集124】41 「せっかくーー」

和合亮一詩集『詩の邂逅』(朝日新聞出版)には7つの対話も収められている。福島のあの日にどのように行動し思索したかを7人が語る。
私はどれにもひきつけられた。なかでも富岡町役場勤務の菅野利行氏が職員を励ましたことば、

「千年に一回のチャンスだから頑張ろうよ」「来たことは不幸だけど、こんな仕事できるのは千年に一回。いましかできないことやろう」

には、しっかりと線を引いた。
私もあの日、不安そうな近所の子どもたちに道で会うと、「せっかくのチャンスだから、なにが起きているのかよく見ておくんだよ」と伝えた。
自分は、24年まえによんだ詩集の一句を大切にしている。それは谺雄二『ライは長い旅だから』。谺はライを負う詩人だ。

「せっかくライにかかったのだから」

彼はこのようにうたう。
以来「せっかくーー」にずいぶん支えられてきた。今回もまた。「せっかく大震災にあったのだから」と。

(2012年8月10日)