【往還集124】37 季語を愚弄するもの

おそらく、「悠然たる時間の流れ」に身をおくには、被災圏との距離が必要だろう。
季語の雪月花は、地平に生じる自然の横軸の様相だ。しかし太陽の運行と密接する縦軸の様相でもある。これら横・縦両軸によって季語は成り立つ。縦軸においては宇宙とも交感する。
だがいきなり縦軸を持ち込まれると、違和感が出てくる。なぜなら震災によってまず破壊されたのは横軸の様相だからだ。そのとき喪失を辛うじて支える軸として縦軸が意識された。季語に、これまでと違う特別な思いを抱いたのはそういう事情があった。
ところで今回、人間の編み出した最先端科学は、一瞬にして自然の象徴たる〈緑の山河〉を汚染した。そして季語を、歳時記を愚弄した。この一事が、季語に宇宙性をみようとする楽観すら抑止する。
それならばどうするか、どうしたらいいのか。この問いが、一ジャンルをこえて大きく立ちふさがっている。

(2012年8月4日)