【往還集124】23 赤いアジサイ

荒浜の敷地によみがえる庭の花。
荒浜の敷地のあちこちには、赤いアジサイが咲いている。

7月になったというのに、海風が冷たい。熱い缶コーヒーをポケットに、荒浜へ。市街地のにぎわいを抜け、東部道路をくぐるとき、いつでも胸がしめつけられる。ここを境目に生死は大きく分かれた。
荒浜には遠来の見学者が次々とやってくる。人々は、なぎ倒された松の巨木を目の当たりにしてことばを失う。
帰り際には慰霊碑を背景にポーズをとる。ニコッとして写真におさまる婦人もいる。
けれど、もう、そういうことに神経を逆立ててもしかたがない。
私は人から離れて歩く、かつての荒浜の風景を重ね合わせながら。あちこちの敷地には、夏の花々が。震災直後の春には、根こそぎの草木が若芽を吹いた。ハマヒルガオも優しい色で開いた。
そしていま、かつての庭と庭主を思い起こさせる草花たち。アジサイも多い。が、ほとんど異様なほどに赤みを帯びている。それでも、この植物たちの生命力よ。(2012年7月3日)