【往還集123】37 岡井隆『わが告白』・1

「二度の離婚、そして五年間の失踪。日本を代表する大歌人には語られざる過去があった。」
新潮社版の帯文にはこうある。前衛短歌の旗手といわれ、やがてゴシップにまみれ、しかしいつのまにか宮内庁御用掛へ登り詰めるという数奇さ。
その岡井さんも、83歳。私の世代が最も影響を受けたのは、塚本邦雄と岡井隆だ。塚本のほうに「さん」をつけなるのはとんでもないという雰囲気がある。しかし岡井の方は、「さん」で通してきた。自分らの次の世代は「岡井先生」と呼ぶが、聞くだけで耳がこそぼったくなる。
そういう歌人の「語られざる過去」を読むうちに、あれこれが浮かんできた。
まず、ストーカー的女性に付きまとわれ、「裁判所へ出頭せよ」という文書まで来たことが記されている。ストーカーとは、ひとりの男(または女)に偏執的な関心を持つ行為だ。岡井さんにはその対象となる要素がある。
(2012年4月29日)