【往還集122】31「そこに人が住んでいるのなら」

 河北新報のいちばん長い日』を、今日読み終えた。一新聞社の記録を超えて、人間そのものへ突き刺さるドラマがいっぱいだ。1点だけあげる。
 福島総局の記者に、引き上げるよう伝えられる。記者はのちに語る、「そこに人が住んでいるのなら、同じように暮らし報道するのが最低限、われわれの役目のはず」。
 この言に、現職時代最後の修学旅行が甦る。沖縄行と決まっていたのに、9・11が勃発。沖縄はテロにねらわれていて危険という風評が広がる。そのため宮城 県では23校中22校がキャンセル。残る1校が自分の高校。学年集会、PTAを開いてこちらが説得したのは「沖縄の人たちはふつうに暮している、それなの に危険だといって避けるのは差別につながる」。生徒も親も異論をはさむ人はいなかった。もちろん無事にいっぱいの収穫を手にして帰ってきた。
 「そこに人が住んでいるのなら」これは自然体の発想だった。
(12月5日)