【往還集122】16「みちの奥の、ひとばめん」

「霊屋下」という名の停留所で下車して 広瀬川にかかる橋を渡る
提の細い褐色の道を歩いてゆくと左側に運動場があって ひときわ高い真黄の葉をつけた銀杏の木が高天に聳え立っている
その下の階段を旋回するように上ってゆく 瑞鳳寺の小暗い杜を横目にる
ちょうど、登りきった肩のあたりが、むかし 魯迅が下宿していたあたりだという

 田村雅之新詩集『水馬』(白地社)に「みちの奥の、ひとばめん」がある。
 半世紀もまえにみちの奥、つまり仙台に降り立った。その記憶を辿る作品だ。
 秋日和の今日、詩集を片手に自分も同じルートを歩いてみた。周遊バスは「青葉通りを左折」「大学正門前を右折」、「霊屋(おたまや)下」の停留所で下車、「広瀬川にかかる橋を渡る、花壇という曲輪の砂岸が見え」と詩はいう。
 橋は当時に比べたら広く立派になった。東方にはビルが城壁のように聳え立ち、天文台も移転した。
 ただし「左脇に運動場」があり、銀杏の木が聳えるのはそのまま。上り階段も魯迅下宿の建物も現存している。とはいえ木造家屋はいまにも崩壊しそうで、一部はビニールシートで覆われている。
 田村氏は「夢の出口にさしかかった不思議な自分を発見する」とうたう。
かくいう自分も、夢の入口から夢の出口へ抜け出たような不可思議さに、しばしとらわれた。
(10月28日)