【往還集122】15「森の手帳・続」

この空間に無数の微粒が浮遊しつづけた。

 今日は家から一番近い森に入った。ここは保安林になって、開発の手からのがれている。人もほとんど入らない。
それをいいことに、自分の庭代わりにしてさまざまな名前をつけた。ヤマユリいっぱいの林道は「ユリの小道」、フキに囲まれた谷水は「フキ清水」、カタクリの群生するところは「カタクリ広場」、タニウツギが咲き並ぶ谷川ぞいは「ウツギ沢」というふうに。
今日も存分に歩き回り、そろそろ帰ろうと後ろを振り向いた。そのとき、日差しが逆光になり、杉木立の黒ずむ空間に、無数の微粒が浮遊しているのをみた。
雪か。
 絶好の秋日和に、まさか。空中を飛ぶ塵のようでもある。 が、上下左右に動きまわっていることからすると、虫にちがいない。日差しがまともに当たると姿は消え、逆光になると万の数がきらきらと浮遊する。
 息を呑むばかりの夢幻の光景。デジカメに収めようとしたが、全く出てこなかった。
(10月27日)