【往還集122】9「手紙は万年筆で・続」

 鷲尾はいう、パソコン全盛時代で、よく印刷された手紙はすっきりしているし、見た目もきれいだが、ビジネスライクな印象をまぬがれない、手書きは上手でなくても一所懸命書いたという雰囲気が出ると。
私はここを読んで、小中英之を懐かしく思い出した。彼は、どこで覚えたのか、さまざまな所作にこまやかで、口うるさかった。いつか会ったとき、腹にすえか ねたように、「編集者に封筒をホチキスで閉じてよこすのがいるんだよ、失礼だねえ」という。私信をセロテープで封印するのももってのほかと、付け加える。 小中にとっては、「手紙は万年筆」もあたりまえのことだったろう。実際彼の手紙は、字は下手だがインクを使用した。
こういうことに無神経だった自分、以来、ホチキス・セロテープ禁を守るようになった。さらに私信を送るときのパソコン禁も、近年付け加えた。こまかく、ささいなことなれど。
(10月13日)