【往還集122】7「私は絶望している」

定禅寺通のケヤキ並木。手前の彫刻はウェナンツオ・コロチェッツティ作「水浴の女」。

 

 月2回、短歌講座を担当しているので街へ出る。定禅寺通に面したビルが会場だ。いつも少し早めに行って、ケヤキの下に憩う。大木と緑の繁茂がまっすぐにつづき、澄明な光が数限りなくこぼれ落ちる。神話の国へ迷い込んだよう。
「私は絶望している」いきなり、声がよみがえる。田中濯「ディアスポラ」(「短歌」11・10)。田中は盛岡在住の歌人。

フクシマにふたたびありし″離散(ディアスポラ)″さまよえるひと棄てられるひと

などの20首ののちに、「差別」の小文を置く。五山送り火の件から語りだし、差別は今後もつづくだろう、原爆被爆者の苦しみぬいた歴史が福島の若者に再び降りかかるだろうという。「私は絶望している」と端的に結語する。
私もまた絶望した。東電・科学者・政治家・遠隔地どれもがひどいものだった。
だが絶望のつぎには何がある?滅びるか出発するか、これしかない。
私は出発に賭けることにした。
(10月11日)