【往還集122】5「サウイヘルモノニ」

 今回の震災で、万単位の死者が出たことの悔しさは容易に消えない。原発の人為によって人の心がずたずたになった悲しみも、簡単には慰撫できない。
仙台からも放射能の恐怖で脱出した人は何人もいる。脱出するとは、土地と人を捨てること。捨てた人、捨て去られた人の断層がいやでもできる。
だが「放射能てんでんこ」に追い詰めた真犯人は、まぎれもなく原発。この一点から、目をそらすわけにはいかない。小さい子をもつ人と話していると、「じつ は私も逃げてしまいたかったんです」と、大半がいう。準脱出者だ。だのに脱出者をこころよく思わないのは、準脱出者に多い。その気持ちもわからないわけで はない。
が、脱出者も相当のリスクを負っている。いつか状態が落ち着いて、また戻ってくるかもしれない。そのときは「ごくろうさん」の一言で迎えたい。サウイヘルモノニワタシハナリタイと、目下修行中である。
(10月9日)