【往還集122】3「宮沢賢治講座のこと・続」

 宮沢賢治といえば、「銀河鉄道の夜」と「風の又三郎」が代表作だが、最高傑作といえば「水仙月の四日」だ(と私は考えている)。 雪婆(ゆきば)んごの支配下にある雪童子(ゆきわらす)は、命令で赤毛布(あかけっと)の子供を殺そうとする。しかし「倒れてゐるんだよ。動いちやいけな い。動いちやいけないつたら。」と、殺す姿勢をとりながら、救おうとする。 ここに賢治が凝縮させているのは、人間の生存にかかわる問題だ。人間は動物や他の生命を奪わずに、生存できない。それならば、他を殺しながら生かす方法は ないか。この問いが「水仙月の四日」の根本にある。賢治自身が選んだのは菜食だが、作品自体は主義に限定されるわけではない。 今回の震災に遭って私に新たにみえてきたのは、生態圏を侵しながら生態圏を再生させる道はないか、万の死者を生かすにはどうしたらいいかーー。「水仙月の 四日」はそれらの問いまで射程距離に入れている。
(10月7日)