【往還集122】1「月山池」

月山池。紅葉にまだ早く、山の色も、水の色も沈んでいる。さざ波は静かに生まれ、広がっていく

久しぶりの湖。ここも震災とは無縁でない。月山池はサイカチ沼と隣り合う。両方を総称してサイカチ沼ということが多い。山道は秋保方面へと通じるが、途中 にがけ崩れがあって、通り抜けできなくなった。 今日は月山池の遊歩道をめぐる。夏の花もおわり、紅葉にもまだ早い山の色は、くすんだ緑。どことなく中途半端で、艶がない。その分、水はいつになく静か だ。こまやかな小波が、休みなく生まれ、広がり、岸へと寄せる。 湖は、いつきても不思議だ。腰をおろして、眺めているうちに、自分と湖の境が消えてしまう。伝承によく出てくる、あの感覚。湖は、春・夏・秋・冬の季節ご とに、いろいろな表情をみせてくれる。どれが一番好きかと問われたら、どれでもない、季節と季節のはざまとこたえよう。つまり今日のような中途半端な季 節。人間でいえば、少年から青年へ脱皮する途上の、変声期にあたる。
(2011年10月5日)