羽山渓谷の上流の方向に、木造の湯治場が見える。そこにいつか行ってみたいと思っていた。今日はちょうどよい折。いったん県道に出て、バス停「鴻ノ巣温 泉」から左折。いきなり細くて急な山道になる。途中に車を置いて、下っていく。すると渓流沿いに、一軒の木造湯治場が。目のまえには、濃緑の山がそそり立 つ。人の気配はゼロ。恐る恐る玄関のほうへ行くと、ひとりのおばあさんが出てきた。今日はやっていないのですかと問う。震災でこわれたし、来る人もいない から閉じてしまったという。いまどき湯治なんてはやらないからねえともいう。人界の匂いのない、瀬の音、風と音だけの離れ里がたちまち気に入ったというの に。釜房ダムのほとりにも金山温泉があって、やはり浮世離れした所だが、今回の震災で閉じてしまった。3・11は海沿いだけでなく、山深くまで侵してい た。
(9月7日)