短歌の世界も、どんどん変化していく。「前衛短歌」ですら、過去の遺物なみに扱われだした。こういう時流のなかで、忘れてほしくないのに、忘れられていく 歌人もいる。小中英之もその一人。彼の作風は、最初から古風だった。しかし洗練された秀歌の数々。何とかして後世に残したいと思いつづけてきた。昨年の 春、砂子屋書房が全歌集を引き受けてくれることになった。編纂委員は藤原龍一郎・天草季紅各氏と自分。「解説」を担当することになり、震災で暖房も断たれ た日々、膨大なゲラを読み込み、想を練りつづけた。刊行は7月30日。どこに出しても恥ずかしくない、615頁の立派な本になった。最晩年に到っても、 「くちばしに鳥の無念の汚れゐて砂上に肺腑のごとき実こぼす」のような秀歌の数々。「歌人・小中英之」は、最期まで衰えていなかった。享年64歳。
(8月29日)