新聞の訃報欄には、今でも震災の物故者が出る。家族四人の名が連記されていることもあって、今更のごとく胸が痛む。震災に関わる記事も途切れないから、 とかく心が沈んでくる。これではいけない、たまには気持ちを洗い流さなければ。そんなときに出かける温泉がある。家から車で十分走れば秋保温泉。温泉街か らさらに三キロ奥まった所に、いちばん鄙びた「神ヶ根温泉」がある。雑木林に囲まれ、こじんまりした木造の二階建。余計なものは、なにもない。湯船も小さ 目。この、気張らない、飾り気のないのがいい。自炊者用の食堂兼休憩室には本棚があって、自由に読書できる。なぜか『ゴルバチョフ回想録』があり、吉本ば なな、村上龍、村上春樹など、まともなのが並ぶ。木洩れ日と梢をわたる風、小鳥とセミと水音。人の気配は最小限。ただし、湯船はひとつだけ。ということ は、混浴になることもある。
(8月16日)