母親の世代は、よく編み物をした。敗戦から間もない時代は、毛糸も貴重品だ。子供が大きくなると、全部ほどいて、体に合わせて編み直す。くせ毛になる と、蒸気や湯で伸ばし、別の色に染めたりする。それを二本の竹棒で編んでいく。母は特に編み物が好きで、暇を見つけては手や指を巧みに動かしていた。傍ら で見ていると、いつの間にかセーターになっていく。興味を覚えた自分も、見よう見まねでやりはじめる。それは、小学二年のとき。以後、長いブランクを経 て、ちょっとしたきっかけで編み棒を持った。すると、長い間眠っていた才が、俄然目ざめてしまった。編み物の本には、すでに設計図が折り込まれている。一 回目はそれにならって編んだが、二回目からはオリジナルの設計図にする。デザインを描き、一目ずつ方眼紙に記入する。図ができれば、あとはそれに従って、 毛糸を繰っていくだけだ。
(8月11日)