【往還集121】22「紙媒体、電子媒体」

 自分もまた、紙媒体から電子媒体への急変に翻弄されているひとりだ。翻弄されながらも、電子媒体に拒否感はない。個人で作品もエッセイもタダで発信でき るとなれば、自らが作家であり編集長でもある。それは「路上」が長年やってきた方向と、本質的に変わりない。個人でやるから批評が不在になる、自己満足に 終わるという問題も、「路上」自身が負ってきた。要はどちらであれ、時間に耐えうる優れた作品を生み出せるかどうかが、最終勝負だ。その観点に短歌を据え てみれば、紙媒体も捨てたものではない。電子画面に短歌が並ぶと、〈目〉が読み、〈心〉までは届きにくい。読者に届く距離があまりに直接的すぎて、「い い」「だめ」の直感判断に導きやすい。紙媒体の場合は、手にする、開く、紙に触る、活字を読むなどの間接性がある。そのまだるっこさがかえって、心への通 路も用意してくれる。
(8月7日)