【往還集121】9「荒浜へ」

 仙台に引っ越してきて最初の家から、荒浜までは自転車で40分の距離。海を見たくなると、よく自転車を走らせ、飽くことなく水平線を眺めた。3・11、 海のどす黒い舌は、海岸も集落も一気に呑み込んでしまう。被災地帯はしばらく一般車進入禁止になっていたが、やっと解除になる。私は車で海に会いに行く。 すると、密集していた家々はほとんど姿を消し、まるでヒロシマの廃墟のよう。土台だけが残り、人間の住んでいた痕跡を辛うじて示す。砂浜にはどこまでもど こまでも瓦礫が散乱し、津波の凄まじさを物語る。防潮堤には、いくつもの花が供えられている。自分も頭を垂れ、手を合わせる。それにしても、寄せては返す はつなつの波。「あれは、どういうことだったのだ?」と問うてみる。そ知らぬふりをするばかりで、返事はない。海を怒るのでも恨むのでもない。ではある が、やっぱり、無数の死者の分まで、問わずにはいられない。
(2011年7月6日)